エレベーターボーイ
 1.

 高校卒業後の僕の就職先は "中山デパート" だった。
中山デパートは北海道ではちょっと知られた70年も続く老舗だけど、今は閑古鳥が常連だ。
平日はどの時間帯もお客さんより販売員の数が上回っている。
店舗の立地条件は悪くない。 繁華街で1番大きな交差点の角地だし、隣にはコンクリート打ちっぱなしのオシャレなレストランがあるし、道路を挟んで向かい側には3年前にできたばかりの新しいデパートがある。
要するに中山デパートはよく人の集まるエリアに位置している。なのに、何故か人々は入口の前を通り過ぎていく。

 このままでは店舗の存続が危うい。6月のある日、そう考えた上司たちが顧客獲得のための対策会議を開いた。
その事は僕もちゃんと知っていた。だからこそ会議の翌日に販売部長から呼び出された時はすごく緊張した。
6階の会議室へ呼び出された社員は、男ばかり6人だった。
僕と、井上くんと、山口くんと、以下省略。 とにかく会議室へ集まったのは、18歳〜22歳までの若い男たち6人だった。
薄暗い会議室の中央には大きなテーブルがあって、6人は神妙な顔つきで椅子に腰掛け、皆が探るような目つきで向かい側に座る部長の顔色を伺っていた。
その時6人はきっと同じ思いだった。いったい自分たちは何をやらされるのかとドキドキしていたんだ。
販売部長は僕らの目の前に座るとまず、6人の顔を右から左へと舐めるように見つめた。
キラッと光るメガネのレンズ。色が黒くて、100キロを超える巨漢。部長はその姿だけで迫力満点だ。
その迫力満点の部長が何か話し始めようとしてスーッと息を吸い込んだ時、僕は思わず膝の上で両手の拳を握り締めていた。
「諸君には来月からエレベーターボーイになってもらう。昨日の会議でそう決定した。 明日から早速研修を始めてもらいます」
見かけ倒しな部長のソプラノの声が薄暗い会議室の天井に響いて、僕の頭に跳ね返ってきた。
僕は突如気が抜けてしまい、両手の拳は膝の上でゆっくりと解かれた。

エレベーターボーイ。

想像もしない展開に声を失った僕は、頭の中で何度もその単語を反すうしていた。

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