月が見ていた  第1部
 3.

 羽根布団の感触が心地いい。
本当はもう少し眠っていたい。だけど、起きなきゃ。
俺は瞼に力を込めてゆっくりと目を開けた。
するとその瞬間、眩しい太陽の光が俺の目に突き刺さった。
俺はベッドに起き上がり、正面の大きな窓から差し込む太陽の光を左腕で遮った。
一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。でも、それはほんの一瞬だけだった。
右側の壁には、白いドアがあった。左側の壁は、一面全部がクローゼットになっていた。 キングサイズのベッドには、真っ白なシーツがピンと張られていた。 こげ茶色のフローリングの床は、一部太陽が当たって白く光っていた。
そしてドアの前には、俺の脱ぎ捨てたボロっちい洋服が転がっていた。
生まれ変わるための、大人になるための脱皮。
まだ薄暗かった明け方には何も感じなかったが、陽が昇った今はひどく汚れた俺の抜け殻が綺麗な部屋の中で浮いて見えた。

 寝起きでスローな頭の片隅には、明け方見たこの部屋の記憶がしっかりと刻まれていた。
ここは俺の、俺だけの部屋だ。
さっきは分からなかった。この部屋には太陽が昇るとベッドの正面の窓から温かい光が差し込むんだ。
だけど、この劇的な変化がまだ信じられない。 1人きりの部屋も、1人きりのベッドも、今までの俺の暮らしにはないものだった。
あ、でも1人きりのベッドはこれで2度目だっけ。 俺はその事を思い出し、もう一度羽根布団に包まって目を閉じた。
恐らく今はもう昼過ぎだろう。でも、今日だけは時間を気にせず眠りたい。 羽根布団はとても温かかった。きっと太陽の光が温めてくれたんだ。 自分の体温と太陽の温かさが1つになり、心の中までポカポカになっていく感触。 すごく気持ちがいい。このまま夢の中へ吸い込まれてしまいたい……
だが、現実には一度目が覚めるとなかなか寝付けなかった。 でもそれは車の中で散々眠ってきたからではない。
慣れは恐ろしい。 俺の体は長年酷使され、とんでもなく疲れているはずなのに、太陽が空の高い位置にある事を知ると落ち着いて眠る気分にはなれない。
何かしなくちゃいけない。起きて働かなくちゃいけない。 まだそんな意識が俺の中には根強く残されていた。
それでもしばらく目を閉じて眠る努力を続けると、やがて頭の半分は眠りに就く事に成功した。 そして残った後の半分は、あの信じられない夜の事を思い出していた。

 「儲かる仕事なの?」
俺は密室の車内で、矢萩にたった1つだけ質問をした。 本当は聞きたい事がたくさんあったけれど、俺の本能が余計な事は聞くなと主張していた。
「普通の18歳では稼げないほどの金が手に入るだろうな」
矢萩は俺の顔も見ず、微動だにせず、ただ口の中でつぶやくようにそう答えた。
俺には最初から選択肢なんかなかった。
彼に言われた事は図星だった。 もしも彼がものすごく悪いヤツで、その彼が俺を騙してさらって、そしてどんなにひどい仕打ちをしたとしても、それでもあの町に留まるよりはずっとましだった。
矢萩は俺が話に乗る事を最初から分かっていたんだ。
「俺と一緒に来るなら、たった1つだけ条件がある。もうこの町の事は忘れろ。 お前は一度死んだんだ。明日からは生まれ変わって新しい人生を生きるんだ。それができるなら、そろそろ車を出すぞ」
彼は俺がただ1つの質問を投げ掛けた時からすでにあの道を引き返す用意を始めていた。 シートの上に投げ出されていた彼の大きな手はとっくの昔にハンドルの上へと戻っていた。 彼は俺の返事も聞かずに真っ暗な道にライトの灯りを送り、さっさと車をUターンさせた。
「一緒に行くよ」
そんな言葉を口にする事が、俺は1番苦手だった。彼はそれを分かっていたから、返事も聞かずに車を発進させたんだ。
彼がUターンを始めた途端、緊張から解き放たれた俺の全身に激しい睡魔が襲ってきた。
普段なら決して人に隙を見せない俺。
だけどその時俺の本能が眠ってもいいよと甘い言葉を囁いた。

 俺はその時、久しぶりに熟睡を体験した。その証拠に車が園に背を向けたのを確認した時から、明け方になって彼に揺り起こされるまでの記憶が全くない。
ただ、ずっと揺りかごに乗っているような心地いい揺れを感じていた事は体がはっきりと覚えている。 とはいっても、俺は揺りかごに乗った事なんか一度もないんだろうけど。
高級車の広いシートは、俺に初めて与えられた1人きりのベッドだった。 俺はあの時だけは間違いなく安心して、足を伸ばして眠っていた。

 俺が起こされた時、空はもう明るくなりかけていた。
わけも分からず車を降りて空を見上げると、頭上に薄く白い月が浮かんでいた。 そしてその月の下にでっかいマンションがあった。 見上げているとすぐに首が痛くなってしまうほど背の高い、象牙色の壁をしたマンションだ。 その並びには、道路沿いにシャッターの閉まっている店がずっと続いていた。
綺麗にアスファルトで舗装された道路は幅が広く、夜明け前だというのに結構車が走っていた。
幅の広い道路と歩道の間には白いガードレールが取り付けられ、その下に落ちている黒い帽子は1人ぼっちで夜明けを待っていた。
すっと息を吸い込むと、都会の匂いがした。 恐らく都会暮らしに慣れた人には感じる事のできない人工的な匂いだった。
外は冷えた。俺はくしゃみをしながら風に揺れる黒いコートを足早に追いかけた。
矢萩はマンションの入口へ向かって真っ直ぐに歩いて行った。 入口手前のゴミステーションの横には2羽のカラスがいて、俺たちを迎えてくれた。
よく肥えた都会のカラスはゴミを食いあさり、その辺りには割り箸やカップ麺のふたや残飯などが散乱していた。
ここいらでは残飯はカラスのエサになるのか。ひどく汚れた歩道の上を見て、俺は複雑な思いを胸に抱いていた。

 今俺は、白いドアの向こうに何があるのかちゃんと知っている。
ドラマの中でしか見た事のないシステムキッチン。そして大きなソファと楕円形の木のテーブル。 ローボードの上には、テレビとビデオ。
そしてテレビの向こうには、天井から床までずっと続いているガラス窓。というよりは、自分のいる場所が空とつながっていると錯覚してしまうようなガラスの壁。
明け方ガラスの壁に両手をついて目線を下へ送ると、道路の上をチョロチョロと走るミニカーがたくさん見えた。
歩道を歩く人は、まるでアリンコみたいに小さかった。
「今日からここがお前の家だ。まぁ今日はゆっくり寝ろ」
いつの間にかすぐ隣に来ていた矢萩がそう言って俺に携帯電話を差し出した。 携帯電話は矢萩の大きな手に包まれると外を歩くアリンコたちに似てとても小ぶりに見えた。
俺は矢萩の顔を見上げた。彼は俺よりずっと背が高かった。 俺はその時までそんな基本的な事さえ認識していなかった。 半日も一緒にいたのに、矢萩の事を何も分かっていない自分にその時初めて気が付いた。
名前も知らない初対面の男。 そんな男にのこのこついて行くなんて、今までの俺には考えられない事だった。
不安がないと言えばウソになる。 でも彼は、ドアの前に立つ俺の背中を押してくれた。手を使わずに、優しく押してくれた。 だが実際にドアを開けたのは俺だ。俺は自分の手でドアを開けたんだ。
これは自分で選んだ道。もう何があっても人のせいにはできない。すべては自分の責任だ。
俺はガラスの壁の前に立ち、これから起こる事はすべて自分で背負うと決心した。
それにしても、彼はいったい何者なのか。どうして俺が選ばれたのか。 知りたい。でもその時俺の本能は知らない方がいいと叫び続けていた。
「短縮ダイヤルの1番は俺の番号だ。淋しくなったら電話しろよ」
矢萩は夜通し運転して疲れているはずなのにそんな素振りは全く見せず、長い前髪をかき上げ、切れ長の目をそっと伏せて音もなく床の上を引き返し、マンションを出て行った。
彼が出て行った後にはガチャンとドアの閉まる冷たい音が部屋中に響いた。

 それから1分後。
俺は薄汚い洋服を寝室の床の上に脱ぎ散らかしてベッドに飛び乗り、携帯電話を操作して短縮ダイヤル1番を液晶画面に表示させた。
そこには11桁の数字の上に "矢萩 智也" という青い文字があった。
羽根布団の感触に酔いしれながら携帯電話を耳にあて、少しドキドキしつつも鳴り続ける呼び出し音に耳を傾ける。 ひんやりとした空気が充満するその部屋で、キングサイズのベッドを独り占めする快感を味わいながら。 そしてわざと斜めにベッドを使いながら。
5回のコールの後、矢萩の低い声が俺の耳に響いた。
「もしもし、どうした?」
矢萩が電話に出るまでに鳴った5回の呼び出し音。その機械的な音を聞いている間が俺にとって最高の時だった。 だが最高の時は矢萩の声を聞いた瞬間に終焉を迎えようとしていた。
俺はひどく興奮気味なのに、至って冷静な矢萩の声。はっきり言って、しらけるくらい落ち着いた声。
俺は何も言えなくなった。
この喜びを誰かに伝えたい。そう思っても、今の俺には矢萩しかいない。 でもどんな言葉を使って喜びを表現しても、きっと彼には分からない。分かりっこない。 俺はその時、そんな簡単な事にも気付かないほど興奮していたんだ。
「もう淋しくなったのか?」
ちょっとからかうような、でもとても優しい声。下がり始めたボルテージが再びほんの少し回復を見せる。
だけど、返す言葉が見つからない。結局俺が言い返した言葉は、こんなつまらないものだった。
「ちゃんと繋がるかどうか、たしかめてみただけだよ」
「そうか。おやすみ」
そう言って矢萩は素っ気無く電話を切った。
俺は頭を乗せると沈み込むほどフカフカな白い枕の感触と羽根布団の心地よさに包まれ、すぐに眠りに落ちていった。


 次に目が覚めたのは、どこからか話し声が聞こえてきたせいだ。
俺はあれからまた眠ってしまったらしい。
目を開けると、さっきとは少し種類の違う光が部屋の中へ差し込んでいた。
趣味の悪い人工的なオレンジ色とはわけが違う、自然な色の光。人はそれを夕焼けと呼ぶ。
裸足で床の上に下り立つと、足の裏がペタペタとフローリングの床に貼りつく感触を覚えた。
話し声は白いドアの向こうから聞こえてくる。 俺はできるだけ音をたてないようにドアノブを回して細くドアを開け、リビングルームを覗き込んだ。
するとまず、そう大きくはないテレビの中の太ったオヤジと目が合った。 俺を起こしたのはテレビの音だったようだ。
床はやはり夕焼け色に染まっていた。
大きなガラスの壁にはカーテンがない。 空へと繋がるガラスの壁。カーテンを取り付けるなんてもったいない。 夕焼けを独り占めする方がずっと利口だ。
テレビの正面。ドアに背を向けて置いてある硬そうなソファの肘掛けの上に黒いソックスを履いた足が見える。
それを確認した途端、ソファのスプリングが軋むムギュという音がテレビの音と重なり、背もたれの向こうから矢萩が顔を出した。
「やっと起きたのか?」
彼は相変わらず疲れた顔も見せず、声をからすわけでもなく、すこぶる元気そうだった。 だけどその時、俺を見つめる切れ長の目はとても厳しかった。
ハッと気付いた時にはもう遅かった。俺は自分が全裸である事をすっかり忘れていた。 俺は慌ててドアを閉め、心臓の高鳴りを抑えながらドアの内側で彼に背を向けた。
キングサイズのベッドの上には俺が起き上がったままの形で羽根布団が乗っかっていた。 夕日に照らされた足元はポカポカと温かい。
もうずっと何もせず、ここにこもって一生お日様の匂いがする羽根布団に包まっていたい。
だけどそんな事はできるはずもなく、それを証明するような矢萩の声がドアを挟んだ俺の背中に浴びせられた。
「シャワーを浴びて来い! メシ食いに行くぞ!」

 恐る恐るドアを開けるともうそこに矢萩の目は存在せず、彼はただソファに寝転がり、肘掛けに乗せた足のみでそこに自分がいる事を示していた。
「バスルームは玄関の手前だ」
ソファの背もたれの向こうで、彼の声がした。
俺は急いで廊下を走りぬけ、閉ざされたバスルームへ駆け込んだ。
備え付けの棚にはふわっと膨らんだ白いバスタオルが用意されていた。
電話ボックスのようなガラスのドアを押して、シャワーブースへ足を踏み入れる。 そして高い位置に掛けてあるシャワーヘッドを手に取り、湯加減を調節しながら頭の上に熱い雨を浴びせる。 そうすると、もう雨の音以外には何も聞こえなくなった。
石鹸はどこだろう。そう思って振り向くと、ガラスの向こうに立つ自分と目が合った。 シャワーブースの向こうには全身が写る大きな鏡が設置されていたんだ。
俺はバランスよく筋肉のついた自分の体をじっと見つめた。 というよりは、肩からへその辺りにかけて例外なく広がる体の傷を見ていた。
まだ新しい傷や古い傷。皮膚の色は青や緑に変色している。
矢萩はこの傷跡を見てどう思っただろう。
「もうこの町の事は忘れろ」彼は昨夜そう言った。この先静かで平和な日々を過ごしていけたなら、そうする事は可能かもしれない。 だけど、この傷跡はいつか消えるのだろうか。 もしもそうじゃないなら、俺はこうしてシャワーを浴びるたびにあの町で過ごした屈辱的な日々を思い出さずにはいられない。

 だけど、俺にも少しは幸せな時期があった。
小学校へ上がるまで。それまで俺は幸せだった。少なくとも自分ではそう信じていた。
"ひかり園" そこが俺の家だった。門構えは立派で、子供がよじ登れないほど高い塀に囲まれた家だった。
真四角な平屋の建物はかなり面積が広く、子供部屋はその中に3部屋あった。
窓のない子供部屋は6畳ほどの広さで、そこには2段ベッドが2つずつ入れられていた。 各ベッドには子供が2〜3人並んで寝る。園にはいつも30人近くの子供たちがいた。 だが子供といってもその年齢は様々で、まだ学校へ通わない幼い子供から10代後半までと本当にバラエティに富んでいた。

 園の暮らしは規則正しかった。幼い子供たちは夜明け前に起床し、顔を洗った後はまず農作業に駆り出される。
園を囲む高い塀は遥か遠くまで続いていた。その塀に囲まれた遥かなる大地が、俺たちの作業場だった。
朝8時まではずっと農作業が続く。でも、幼い頃はそれが楽しかった。 子供は元来土いじりが好きなんだ。 俺と年の近い仲間たちも皆喜んで土を掘り返し、楽しみながら畑に肥料を撒いたりして時間を過ごす。
俺たちはいつもそこで太陽が昇るのを見ていた。 太陽が少しずつ高い位置へ移動して俺たちに光を注いでくれると、なんだかとても元気になれた。 でも長く伸びた高い塀の影が俺たちを追いかけてくると、皆が押し黙った。
食事の時間もとても楽しみだった。土いじりが終わった後手を洗い、爪の間に入って落としきれなかった泥を気にしながら食堂へ向かうと、とてもおいしそうな香りが廊下にまで溢れていてもう真っ黒な爪の事なんかすっかり忘れてしまう。
広い食堂には細長いテーブルが3つ並んでいて、幼い子供たちは大きい姉さんたちからトレイに乗っかった食事を受け取り、適当に分かれて席に着く。 "いただきます" が待ちきれずにつまみ食いをしたり、ふざけ合ってはしゃいだり。労働の後の朝食は、1日で1番活気がある時間帯だった。
でも、食事の準備をしている大きい姉さんたちには一切笑顔がなかった。彼女たちの目は死んでいた。
皆が揃って食事の準備がだいたい整った頃、食堂に俺たちの親父がやってくる。 背が高く、頭が禿げ上がり、いつも着物を身に着けていたあいつ。それがひかり園の園長だ。
園長がやってくると、それまでざわついていた食堂の中が急に静まり返り、ピンと糸を引いたように空気が張り詰める。 子供たちは背筋を伸ばして園長の動向をじっと見守っている。

 皆園長の怖さを知っていたんだ。あいつは決して皆が揃っている所で不機嫌な顔を見せる事はない。 それでもあいつが来ると、そこにいたすべての連中が緊張した。
園長は誰かに文句をつける時、直接本人を自分の部屋へ呼んでケリをつける。
殴られても蹴られても、メシ抜きを言い渡されても刃物を突きつけられても、「父さんはお前が悪い子だから叱っているんだぞ」という言葉に縛られて他の誰にもその事を話したりはできない。 皆に自分が悪い子だと宣伝する。そんな事、できる道理がない。
子供たちは幼い頃から園長のそのやり方で自分はダメな人間だという意識を刷り込まれる。
自分の体の傷を隠しながら、誰かの体の傷を見つけてほくそ笑む。 あいつも俺と同じように悪い子なんだ。そう思う事で作り上げられていく仲間意識。歪んだ友情。
それでも、学校へ通い始めるまではまだいい。
学校へ行っていない幼い子供たちは塀の中で守られていて、一歩も外へ出る事はない。 塀の中の事しか知らなければ、人はそれが普通の暮らしだと思い込む。 外の事を何も知らないから、あまりにも無知だからこそ幸せでいられるんだ。
夜明け前に起きて、農作業をして、食事の後今度は園内の掃除をさせられ、昼食と夕食を兼ねた食事が夕方4時頃与えられる。 それから後は洗濯や風呂の時間だ。そして午後7時頃には寝る時間がやってくる。
思えばあの頃はぐっすり眠れた。あのまま学校へも行かず、外の世界を知らずにずっと塀の中で暮らしていたら……そうしたら自分が親に捨てられた事も知らず、ずっと幸せでいられたのかもしれない。 俺は今でも時々そんな錯覚に陥りそうになる。
鏡の中で一際目立っているのは、大きな切り傷。
やがてシャワーの湯気でガラスが曇り、カッターナイフで切りつけられた肩の傷は見えなくなった。

 俺は全身に熱いシャワーを浴びた。白い湯気の中小さな棚にボディソープを見つけ、そのドロッとした液体をお湯で薄めて体に塗っていく。
するともう感じなくなっていたはずの傷の痛みが徐々に顔を出し始めた。
切り傷にボディソープを塗りこむと、その刺激で体が悲鳴を上げた。ほんの少しでも強く体を擦ると鈍い痛みが襲い掛かってきた。
「痛い……」
いつも唇を噛んで我慢し続けてきた言葉が、今やっと吐き出された。
体中が痛い。頭も、胸も、心の中も。
俺の体を伝って排水溝に流れ落ちていく熱い雨。
傷の痛みも俺の過去も、全部一緒に流されてしまえばいいのに。

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